マネージャーのためのチームワーク改善:阻害する部下への適切な距離感と関わり方
チームの成果は、個々の能力だけでなく、メンバー間の連携や協力によって大きく左右されます。マネージャーにとって、チームワークを高めることは重要な役割の一つですが、中には意図せず、あるいは自覚なくチームワークを阻害してしまう部下がいる場合があります。このような状況にどう対応するかは、多くのマネージャーが直面する難しい課題です。
チームワークを阻害する部下の言動とマネージャーの課題
チームワークを阻害する部下の言動は様々です。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- 自分の業務範囲外の協力を拒む
- チーム内で情報共有を怠る、あるいは情報を囲い込む
- 他者への批判や否定的な発言が多い
- 個人プレーに走り、チーム全体の目標に無関心
- 会議やディスカッションに非協力的、あるいは一方的に発言する
これらの言動は、チーム内の信頼関係を損ない、コミュニケーションを滞らせ、結果としてチーム全体のパフォーマンスを低下させる可能性があります。マネージャーとしては、こうした状況を改善したいと考えますが、単に厳しく叱責したり、逆に見て見ぬ振りをしたりすることは、問題を悪化させるリスクがあります。
なぜチームワークを阻害する言動が生まれるのか
部下がチームワークを阻害するような言動をとる背景には、様々な要因が考えられます。これらの要因を理解することは、適切な対応を考える上で重要です。
- 価値観や経験の違い: 過去の成功体験から個人主義を重視している、あるいはチームで協業する経験が少ない。
- スキルや知識の不足: チームワークに必要なコミュニケーションスキルや、他者と協力するメリットへの理解が不足している。
- 個人的な課題: プレッシャーやストレス、自己肯定感の低さなどが言動に影響している。
- チームへの不信感: 過去にチームでうまくいかなかった経験や、現在のチームの状況への不満がある。
- 役割や期待値の認識のずれ: 自身の役割や、チームとして期待されている貢献内容を正しく理解していない。
これらの要因が複雑に絡み合っている場合もあります。マネージャーは、表面的な言動だけでなく、その背景にある原因を探る視点を持つことが求められます。
適切な距離感と境界線の設定
チームワークを阻害する部下への対応において、「適切な距離感」の維持は非常に重要です。近すぎても遠すぎても、問題解決は難しくなります。
- 近すぎる距離感のリスク: 問題のある行動を個人的な関係性の中で曖昧にしてしまう。感情的に巻き込まれ、冷静な判断ができなくなる。
- 遠すぎる距離感のリスク: 部下との信頼関係が構築できず、本音を聞き出せない。問題行動を放置し、チーム内の不満を高める。
適切な距離感とは、問題行動には焦点を当てつつ、部下の人格や存在そのものを否定しないというスタンスです。また、チームのルールや期待値を明確に伝え、それに沿った行動を促すという境界線を引くことです。部下の個人的な背景に配慮はしつつも、チームへの影響という客観的な事実に基づいて対話を進める姿勢が求められます。
具体的な実践方法
チームワークを阻害する部下への対応は、段階を踏んで進めることが効果的です。
ステップ1:状況の正確な把握
まずは、どのような言動が、具体的にチームのどのような側面に影響を与えているのかを正確に把握します。
- 客観的な事実の記録: いつ、どのような言動があったのか、具体的にメモを取ります。感情的な評価ではなく、観察可能な事実を記録することが重要です。
- 多角的な情報収集: 可能であれば、他のメンバーからの情報も参考にします。ただし、他のメンバーからの情報をそのまま鵜呑みにせず、あくまで状況把握の一助と捉え、匿名性やプライバシーに配慮しながら慎重に行います。
ステップ2:1on1面談での対話
部下と個別に1on1面談の機会を設け、落ち着いた環境で対話を行います。
- 問題行動の具体的な指摘: 曖昧な指摘ではなく、「先日の会議での〇〇さんの発言についてですが」「△△のプロジェクトで情報共有が□□だった件ですが」のように、具体的な事実に基づいて話を始めます。
- 対話例: 「〇〇さん、少しお話しさせてください。先日の会議で、△△について□□というご意見がありましたが、その後のチームでの検討が進まなかったように感じています。あの時の状況について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
- チームとしての期待値の伝達: チームが目指す状態や、チームメンバーとして期待される協調性や情報共有のレベルを改めて明確に伝えます。
- 対話例: 「チームとしては、お互いに情報をオープンに共有し、課題解決に向けて協力し合うことを大切にしています。〇〇さんのこれまでの経験や知識はチームにとって重要ですので、ぜひ積極的に共有していただけると助かります。」
- 部下の考えや背景の傾聴: なぜそのような行動をとったのか、部下の言い分や考え、抱えている困難などを丁寧に傾聴します。頭ごなしに否定せず、まずは部下の話を十分に聞く姿勢が信頼関係を築きます。
- 対話例: 「なぜ、そのように感じられたのですか?」「何か、協力することに難しさを感じていることはありますか?」
- 改善に向けた合意形成: 問題点を共有し、部下自身にどのような行動を改善していくかを考えてもらいます。マネージャーが一方的に指示するのではなく、部下自身が改善点に気づき、具体的な行動目標を設定するのを支援するコーチング的なアプローチが有効です。
- 対話例: 「チームワークを高めるために、〇〇さんの方で何か取り組めそうなことはありますか?」「例えば、今後は△△の件について、□□のように情報共有をしてみるのはどうでしょうか。一緒に考えてみましょう。」
- 境界線の再確認: 必要に応じて、チームのルールや守るべき行動規範(例:ハラスメントにならない言動、建設的な意見交換の方法など)を明確に伝えます。
ステップ3:チーム全体への働きかけ
問題の部下だけでなく、チーム全体に対して働きかけることも重要です。
- チームの共通認識の強化: チームの目標や価値観、協調性の重要性について、定期的にチーム全体で話し合う機会を設けます。
- 心理的安全性の向上: メンバーが安心して意見を言え、助け合いを求められる雰囲気作りを促します。
- チームビルディング活動: メンバー間の相互理解を深めるためのワークショップやアクティビティを検討します。
ステップ4:他の部下への対応
問題の部下に関する他の部下からの相談や不満に対しては、公平かつ冷静に対応します。
- 個別の部下と問題の部下との間の仲介者となるのではなく、あくまでチームとしてのルールや期待値を伝え、個別の問題解決は当事者間に委ねる(ただし、ハラスメント等に該当しない範囲で)。
- 問題の部下を一方的に非難するのではなく、チーム全体の課題として捉え、改善への協力を呼びかけます。
- 対話例(他の部下から相談を受けた場合): 「〇〇さんの△△という言動について、チームとして□□に取り組んでいます。皆さんの協力も必要なので、もし具体的な困りごとがあれば、チーム全体でどう解決できるか一緒に考えさせてください。」
ステップ5:改善が見られない場合の対応
度重なる対話や働きかけにも関わらず、状況が改善されない場合は、より上位のステップを検討する必要があります。
- 人事部門や上司への相談: 客観的な記録に基づいて状況を報告し、適切なアドバイスやサポートを求めます。
- 評価への反映: 改善が見られない行動については、評価の際に客観的な事実に基づいてフィードバックを行います。
- 配置転換などの検討: 状況によっては、チーム構成の見直しや配置転換も選択肢となり得ますが、これは慎重に検討し、関係部署と連携して進めるべきです。
まとめ
チームワークを阻害する部下への対応は、マネージャーにとって根気とデリケートな配慮が求められる役割です。重要なのは、問題行動に焦点を当て、その背景を理解しようと努めながら、チームとしての明確な期待値と境界線を伝えることです。
適切な距離感を保ちつつ、個別具体的な対話とチーム全体への働きかけを組み合わせることで、部下の行動変容を促し、チーム全体の調和とパフォーマンス向上を目指すことが可能になります。継続的な観察と、粘り強い対話が、この課題を乗り越える鍵となります。